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医薬品開発担当者の視点からお届け るなの気になる!医療ニュースメモ

第14回「日本における医薬品の費用対効果評価のお話」

お久しぶりです!

COVID-19も落ちつき、マスク着用も軽減された中で迎えた春ですが、どのようにお過ごしでしょうか。

以前薬価の算定についての話題を取り扱ったことがありますが、今日は薬価決定後のお話(※日本において)である医薬品の費用対効果評価制度について、簡単に触れてみたいと思います。

 

■日本における費用対効果評価制度の概要

一般にはあまり知られていませんが、日本でも2019年4月から医薬品の費用対効果評価制度の運用が開始されています。

 

日本では既存薬と比較して、「新薬の効果がどれくらい増加し、それに応じて費用がどれくらい増加したか」をQALY(質調整生存年)というものさしを使って比で表します。

 

治療が生み出すQALYは「QOL(quality of life)」を「生存年数」にかけることで求められます。医薬品の費用対効果の増分は、このQALYと費用について、それぞれの増加分の比をとったものなのです。

 

簡単に言うと、日本における医薬品の費用対効果の評価とは「医薬品の有効性や安全性が、患者さんの「生活の質」や「長生きすること」にどのくらい影響しているのか?」という観点で、「改めて」その医薬品を評価してみるということです。

この点を評価するという観点で、近年の治験ではQOLを評価するための指標(例えば患者アンケートなど)を盛り込んでいるものも散見されます。

 

■費用対効果評価をどのように用いるべきか?

さて、上記で「改めて」その医薬品を評価すると記載しました。

これには意味がありまして、日本の費用対効果評価は、一旦保険収載した「後」に対象となる品目を選んで、評価して価格調整しているのです。

 

つまり「保険償還するかの判断ではなく、価格調整に使っている」のですね。

 

この点、みなさまはどう考えられますか? 私はこれは良い制度であると思っています。

保険償還するかしないか? の判断に用いるということは、つまり新薬に保険が適応されなくなり、全額自己負担となる可能性があることを意味します。

 

新薬が費用対効果評価で保険償還から外されることは、患者さんとにっては大きなマイナスとなるのではないでしょうか?

 

保険償還可否の判断に費用対効果が使われている国では、承認されているのに公的保険の対象とならない医薬品がたくさんあります。例えばカナダでは製造販売承認されても、約半数しか公的医療保険の負担対象となりません。

患者さんの負担が増大するだけではなく、その負担の増加は医薬品へのアクセスを制限することになり、結果として、国民の健康を損なう可能性につながるということです。

 

日本はただでさえ薬価引き下げが激しい国であり、ドラッグ・ラグやドラッグ・ロスの加速が懸念されている中、保険償還に費用対効果評価を用いることは、更なる開発の遅延にもつながりかねず、適切な対応であるとは思えません。

 

なお日本において費用対効果評価制度化以降、2019年度4品目、2020年度8品目、2021年度15品目が対象となりました。革新性が高く、財政影響が大きい医薬品・医療機器を対象としているので、全部の医薬品ではないのです。

対象が「財政影響が大きい」医薬品を対象としていることからも推測できる通り、費用対効果評価の制度では薬価の引き下げがメインとなっているのが現状です。

 

薬価の引き下げ政策は先進国の中で「充実」している日本ですので、ぜひ費用対評価制度はイノベーションを評価する制度にしてほしいと願う、今日この頃です。