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薬学×付箋ノートBOOK著者 くるみぱんの薬学ノートと日常メモ

第26回「脂質異常症の治療① 全体像とスタチン系」

前回の記事で動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年の改訂点についてまとめました。脂質異常症の治療の流れについて復習しようと思います。

動脈硬化性疾患の予防のための薬物療法

動脈硬化性疾患の予防のため管理目標値を目指したLDLコレステロール低下療法の有用性が示されており、薬剤の種類に関わらず低下療法が推奨されています。

また、リスクのある患者の脳心血管イベントの予防のため高トリグリセライド血症に対してイコサペント酸エチルなどの併用が推奨されています。他にも、冠動脈疾患の二次予防には発症早期より最大耐用量のストロングスタチンを第一選択とすることなどがガイドラインにて示されています。

各種薬剤の特徴

脂質異常症治療に対する適応・有効性・安定性が確立している薬剤が多くあります。それはスタチン系、フィブラート系、エゼチミブ、n-3系多価不飽和脂肪酸、陰イオン交換樹脂、プロブコール、ニコチン酸誘導体です。PCSK9阻害薬のみ、適応と有効性は確立されているものの長期投与に関する安全性がまだ確認されていません。それぞれ何に対してより効果を示すのか表にまとめました。

スタチン系(HMG -CoA還元酵素阻害薬)

プラバスタチン、シンバスタチン、フルバスタチン、アトルバスタチン、ピタバスタチン、ロスバスタチン

スタチン系は現在、脂質異常症治療の中心的薬剤となっています。LDLコレステロールが高い脂質異常症に適応があり、20〜50%ほどLDLコレステロールを低下させます。TGも低下させますが、こちらは10〜20%程度の改善効果です。スタチン系の投与で糖尿病の新規発症が増加する可能性が示されていますが、それ以上に心血管イベントの抑制のメリットがあります。6薬品いずれも催奇形性により妊婦には禁忌です。

  • プラバスタチン(メバロチン)

スタチン系の中でも比較的効果がマイルドな水溶性のスタンダードスタチンです。エビデンスが豊富で日本人での安全性も確立しています。そして、CYPでの代謝を受けないこともあり、併用禁忌の薬がないため併用薬が多い患者にも使用しやすいです。

また、2型糖尿病の発症抑制や血液凝固抑制作用が報告されています。プラバスタチンは他のスタチン系と異なり、重篤な肝障害のある患者への禁忌がなく、1日2回の投与も可能、細粒剤もあるため、嚥下困難な患者にもメリットとなります。

 

  • シンバスタチン(リポバス)

スタチン系の中でも比較的効果がマイルドなスタンダードスタチンです。脂溶性でCYPの影響を受けやすく、CYP3A4の代謝を阻害するイトラコナゾール、ミコナゾール等との併用は禁忌となっている他、グレープフルーツジュースとの相互作用にも注意が必要です。

シンバスタチンもプラバスタチンと同じくエビデンス豊富な薬剤で、日本人での安全性も確立しています。なお、腎機能検査値に異常のある患者がフィブラート系と併用する際には上限が10mgと定められています。

  • フルバスタチン(ローコール)

こちらも効果が比較的マイルドな脂溶性スタンダードスタチンです。代謝は主にCYP2C9で行われ、併用禁忌の薬はありません。他のスタチン系は服用時点の指定がないか「夕食後が望ましい」という添付文書の記載ですが、フルバスタチンは用法が「1日1回夕食後」と明記されています。また、スタチン系の中にはシクロスポリンと併用禁忌のものがありますが、フルバスタチンはシクロスポリンを用いている腎移植患者へのエビデンスがあります。

 

  • アトルバスタチン(リピトール)

比較的効果の強い脂溶性のストロングスタチンです。主にCYP3A4で代謝されるため相互作用は比較的多く、グレープフルーツジュースとの相互作用にも注意が必要です。また、OATP1B1/1B3の基質であるためC型肝炎治療薬のグレカプレビル・ピブレンタスビルとは併用禁忌です。アトルバスタチンにはエゼチミブとの配合剤(アトーゼット配合錠)やアムロジピンとの配合剤(カデュエット配合錠)があります。

  • ピタバスタチン(リバロ)

比較的効果の強い脂溶性のストロングスタチンです。代謝酵素ではCYP2C9で僅かに代謝されるのみで、多くは未変化体のまま胆汁排泄されます。CYPでの代謝が少ない分、相互作用は少ないですがシクロスポリンとは併用禁忌です。併用することでピタバスタチンの血中濃度が6倍ほどに上昇してしまいます。また、家族性高コレステロール血症での小児への適応があります。2022年11月にはエゼチミブとの配合剤(リバゼブ配合錠)が薬価収載されました。

  • ロスバスタチン(クレストール)

スタチン系の中で最も効果が強いストロングスタチンです。水溶性のため、CPYによる影響を比較的受けにくく、複数の薬を併用している患者にも投与しやすいです。相互作用としてはピタバスタチンと同じく、シクロスポリンが併用禁忌です。さらにロスバスタチンにもエゼチミブとの配合剤(ロスーゼット配合錠)があります。

 

まずはスタチン系についてまとめました。他の脂質異常症治療薬についても次回以降まとめていきます!

 

【参考】

動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版(一般社団法人日本動脈硬化学会)

髙久史麿監修『治療薬ハンドブック2021』(じほう,2021年1月)

藤村昭夫編『類似薬の使い分け 第3版 症状に合った薬の選び方とその根拠がわかる』(羊土社,2020年10月)