第15回 児童手当と所得制限について解説!
木元 貴祥(きもと たかよし)さん
パスメド ‒PASS MED‒ 代表 https://passmed.co.jp/
1986年生まれ 滋賀県出身
日本イーライリリーのMR職、薬剤師国家試験対策予備校「薬学ゼミナール」の薬理学講師、保険調剤薬局の薬剤師を経て現在に至る。
現在はSkypeを利用した薬学生向けのオンライン家庭教師や看護師国家試験対策予備校講師業の他、下記サイトの運営を行っている。
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- 薬剤師国家試験の病単、薬剤師国家試験のための薬単、同効薬おさらい帳
- 薬剤師になったら最初に読みたい 大学で教えてくれなかったお金の本
株式会社PASS MED(パスメド)の木元 貴祥(きもと たかよし)です!
4月から新たな期が始まりました。また新たな気持ちで頑張っていきましょう。暖かくなってきましたが、体調の変化には十分お気を付けくださいせ。
さて、今回はお子様がいらっしゃる方なら一度は気になったことのある「児童手当」について、その仕組みを解説していきます。実は2022年10月に児童手当法が改正され、新たに「所得制限上限額」というものが設けられました。これによって、今まで貰えていた手当が貰えなくなった方もいらっしゃいます。
自分自身は貰えるのか? 貰えるならいくらくらい貰えるのか? などなど、しっかりと確認しておきましょう!
児童手当と支給の対象者
児童手当は、子供・子育て支援の適切な実施を図るため、次代の社会を担う児童の健やかな成長に資することを目的としてします。
使い道は親に一任されていますが、子供のために使用すべきです。間違っても酒・タバコ・ギャンブルには絶対に使わないようにしてくださいね。概ね、制度の趣旨に沿った使い道としては、以下が挙げられます。
●貯金
●保育園料の補填
●日々の子育て日用品の購入
● 将来の教育費として、NISAなどの長期投資や保険の積み立て(例:学資保険)
また、支給の対象者は「0歳から中学校卒業までの児童」を養育している「主たる生計の中心者(父母の場合、一般的には所得の高い方)」です。つまり、子供が産まれてから中学卒業までの15年の間、その親に対して児童手当が支給されます。
支給方法は原則として、毎年6月、10月、2月に、それぞれの前月分までの手当が支給されます(例:6月の支給日には2~5月の4か月分の手当が支給)。
児童手当支給額と特例給付
では気になる支給額についてです。支給額は子供の年齢や親の所得によって異なり、表1の通りです。
2022年9月末まではどれだけ所得が高くても特例給付の月5,000円が支給されていました。しかし、2022年10月に児童手当法が改正され、新たに「所得制限上限額」が新設されたことによって、高年収・高所得の方は特例給付すら支給されないようになりました。
政府の試算によれば、所得制限上限額によって手当が支給されなくなる児童数は61万人(全体の4%)、財政効果額(公費)は370億円とされています。370億円は待機児童や少子化対策に使用されるとのことですが、親の所得によって子供の手当が全く支給されなくなるのは感情的にちょっと嫌ですよね……。
さて、所得制限となってしまう高年収・高所得のラインについては、扶養親族等の人数に応じて表2の通りとされています。
政府のモデルケース(扶養親族等の人数3人:配偶者+子供2人)を例にすると、世帯主の年収が960万円未満なら満額の児童手当が支給されます。しかし、年収960万円以上になると、所得制限限度額に引っかかってしまい、特例給付(5,000円/月)に減額されます。さらに、年収1,200万円以上になると所得制限上限額に該当するため、支給はゼロになってしまいます。
このように、年収・所得が高い場合には児童手当が減額もしくは消滅してしまう可能性があるため、稼ぎすぎるのも注意が必要かもしれません。
児童手当が消滅してしまったとしても、次年度の所得が所得制限上限額未満になれば、再申請することによって手当を復活させることも可能です。ただし、自動的に復活はしないため、必ず役所に問い合わせのうえ、再申請を行うようにしてください。
児童手当における所得の計算法
所得制限に引っかかりそうな場合でも、有効な対策はいくつか存在しています。児童手当の所得制限はあくまで「所得」で判断されるため、表2のかっこ内の年収は目安に過ぎません。サラリーマンの場合、「年収-給与所得控除=給与所得」でしたね(第1回:薬剤師が知っておくべき税制・節税に関する言葉の意味)。
児童手当の所得制限限度額や所得制限上限額に該当するかどうかについては、児童手当における所得額(図の「A」)を算出します。
このとき、所得額から控除できるものがいくつかありますが、一般的なサラリーマンに関与しているものは「医療費控除」と「小規模企業共済掛金控除(iDeCo)」くらいです。
医療費控除は窓口で支払った医療費が世帯で10万円を超えた分、iDeCo(小規模企業共済掛金控除)は年間14.4万円~27.6万円が控除可能です!
つまり、医療費控除やiDeCoを活用することによって、児童手当の所得制限に引っかかる可能性を低くすることができます。もし該当するなら積極的に活用していきたいですね。
【参考】
第2回 iDeCoの節税効果やメリット・デメリットについて
第6回 医療費控除について解説!
産休・育休の取得も有効
控除以外の対策としては、所得を減らす方法があります。「所得を減らす!?」と思われるかもしれませんが、手取りはほぼ変わらずに額面の所得を減らせる方法があります。それが産休(産前産後休業)や育休(育児休業)です。子供の出産前後に取得できる産休・育休ですが、当該期間に支給される手当はいずれも非課税のため、年収や所得に含まれません。
● 産休中には「出産手当金」が支給:産前42日、出産後56日の間に支給される手当で、給与の約3分の2が支払われる。
● 育休中には「育児休業給付金」が支給:子供が満1歳になるまで(最長2歳まで)支給される手当で、給与の50~67%が支払われる。
いずれも給与の満額は支給されないものの、非課税のため、所得税・住民税はかからず、社会保険料の支払いも免除されるため、手取りとしてはほぼ変わりません。産休・育休を積極的に取得することで、児童手当の所得制限を回避できる可能性が高まりますね! ただし、注意点として、児童手当は「夫婦のうち所得の高い方」が基準になっているため、所得が高い方が育休を取得する必要があります。できれば夫婦揃って育休を取得したいところですね!
まとめ
今回は児童手当の概要と共に、2022年10月に改正された児童手当法の変更点等について解説しました。
● 児童手当は0歳から中学校卒業までの児童が対象
● 主たる生計の中心者(父母の場合、一般的には所得の高い方)の所得で判断される
● 手当は月5,000円~15,000円で、所得制限上限額に該当すると消滅する
● 児童手当における所得で適用できる主な控除は医療費控除とiDeCo
● 産休・育休中の手当は非課税のため、児童手当における所得に算入されない
子供が産まれるとどうしても出費が多くなり、教育資金や貯蓄も心配になると思います。そんなとき、非常に助けになるのが児童手当です。所得制限の考え方を理解し、積極的な産休・育休の取得、そして各種控除(例:医療費控除、iDeCo)を活用していただければ幸いです。
●メディカルタックス : 児童手当の特例給付・廃止の所得制限がギリギリ!満額貰うには?